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「人間の尊厳」の講義を終えて

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リハビリ中の少女たち

リハビリ中の元子ども兵士の少女たち

先日1月9日に行わせてもらった慶應大学「人間の尊厳」の講義にて、受講してくれた学生さんたちが書いてくれたリアクションペーパーへの回答と、拝読させてもらった感想です。

リアクションペーパー内で一番多かった質問は、「なぜウガンダのゲリラ(LRA/神の抵抗軍)を、ウガンダ政府や国際社会は放置しているのか?」というもの。

講義の際、このあたりの状況に関して私の説明が不十分だったため、誤解を招いてしまったようですが、決してウガンダ政府と国際社会はLRAを放置しているわけではありません。

ICC(国際刑事裁判所)は、2005年7月にLRAのリーダーであるジョセフ・コニーを始めとする5名の幹部に対し、人道に対する罪、強姦を含む殺人・奴隷・性的奴隷・子どもへの入隊強制などの罪で逮捕状を出し、ウガンダ政府は、何度もLRAと交渉の席を設けたり(双方の要求が折り合わず、すべて決裂しましたが…)、隣国のスーダン(当時の北スーダン)と共同で2002に「鉄の拳作戦」、2008年~2009年に「ライトニングサンダー作戦」を南部スーダン政府・コンゴ民主共和国と合同で行いLRAの殲滅を計っています。

しかし、その効果がどれほどあったのかと問われると、なかなか厳しい現実があります。

2006年に行われたウガンダ政府とLRAの最後の交渉では、ICCの逮捕状の取り扱いが大きなネックになり、ウガンダ政府が行った軍事作戦もウガンダ北部からLRAを追い出すことに成功し組織を弱体化したものの、隣国コンゴ民主共和国や中央アフリカ、スーダン南部へと戦禍が拡大しました。

物的証拠が何もないので、あくまでも推測に過ぎないのですが、LRAが殲滅されないのは何らかの理由があるのではないかと思っています。なぜなら、現在LRAが活動している場所は、複数の国の国境付近に位置するレアメタルやダイアモンド・金・石油などが眠る地域です。

実際に2009年3月、「ライトニングサンダー作戦」に従軍し当時前線があったコンゴ民主共和国のガランバ国立公園に行ったのですが、ベースキャンプも一般の兵士たちも、殲滅戦を行っている気配はまるでなく、非常にのんびりした雰囲気が漂っていました。

これはウガンダに限らずソマリアもアフガンもイラクも同様だと思うのですが、情報通信網が発達し、経済・宗教・政治が非常に複雑化した昨今、多くの国や組織がひとつの紛争が生み出す様々なメリット・デメリットに関与しているため、以前と比較すると「紛争を起こすのは簡単になり、終わらせるのは困難」になっているように思います。

そのため、ウガンダ政府も国際社会もLRAを放置しているわけではなく、問題を終結させるようアクションは起こしているものの、様々な思惑が絡み合い、未だLRAは健在なのです。

約300のリアクションペーパーには多種多様な感想が記されていて、とても読み応えがありました。特に今回感じたのは、感受性が強く多角的な視点を持ち、そして冷静に物事を判断する力を持っている方が多いということでした。お世辞ではなく本当に「日本の未来も捨てたもんじゃない」と、嬉しくなりました。

ただ同時に一つだけ気になったのは、「アフリカの子ども達と比べると自分は甘えている」、「自分には存在価値がない」、「日々、ダラダラ生きている自分に嫌気がさした」など、「日本という豊かで平和で恵まれた国で生きているのに……」という思いからくる反省の言葉が相当多く記されていたことです。

確かに現在の日本では、毎日銃弾が飛び交うことも、誘拐され兵士にされることも、強制的に人を殺させられることもありません。しかし、講義の際にもお伝えした「13年連続自殺者3万人超」という事実が示すとおり、「普通・常識」という名の目に見えない巨大なプレッシャーと幼少期から向き合って一生を過ごすつらさは、アフリカでは感じることのないものです。(アフリカにいて私が心地良い理由の一つは、そこにあります)

そのため決して日本に生まれ日本で生きている自分を卑下する必要は全くなく、日本とアフリカそれぞれの短所ではなく長所に目を向けて、どんなことでもかまわないので、自信と勇気を持って新しい一歩を踏み出し、前に進んでいって欲しいと思います。

最後に、今回伝えさせて頂いた内容は、あくまでも私という一個人のフィルターを通した写真や映像であり考え方です。もしアフリカの現状に興味を持ってくれた方がいれば、是非、自分で色々な情報を探して、自分なりの結論にたどり着いてください。

そして、機会があれば是非、一度アフリカの大地に立ち、アフリカの匂いを嗅ぎ、アフリカの厳しさと優しさに触れてみてください。きっと人生観がかわりますよ。


(付記)

最後に流した子ども達の映像から、前に進むエネルギーを感じ取ってくれた方が何人かいたようで、とても嬉しく思います。

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